ナコルル
登場作品:サムライスピリッツ
事前に一切雑誌での告知がないまま稼働し会社からの期待は薄かったサムライスピリッツは皆さんがご存じの通りの人気シリーズとなっていきました。次作は前作と違い多くのファンの期待を背負うことになるのですが、前作から一年と二か月後に発売された真サムライスピリッツ覇王丸地獄変も大ヒットとなります。名実共にSNKの看板作品の一つになったサムライスピリッツですが、この作品のナコルルのエンディングで物議が起こりました。
羅将神ミヅキを倒したものの、一度崩れた自然のバランスは戻らず崩壊を止めるためにナコルルはカムイの力を借りて光のエネルギーの中に身を投じます。彼女の肉体は無くなり大自然と一体となりました。ナコルルは死んでしまったのです。
ゲームのヒロインといえるキャラクターのエンディングでの死は多くの衝撃を与えましたが、当時、真サムライスピリッツのムック本でも開発陣へのインタビューでこのことが触れられ、ナコルルが死ぬことになった真意が尋ねられます。その時、開発スタッフは「ナコルルを永遠の存在にしたかった」といった趣旨の発言をしていました。キャラクターを永遠の存在にしたい。大人になった今では開発者のこの気持ちになるほどと思うものもありますが、当時は僕を含め多くのファンがナコルルの死に納得が出来なかったのではないかと思います。続編でナコルルを出さないってこと? それってありえなくないと。そういった声が多数会社に届けられたのか分かりませんが、案の定、次作ではナコルルはプレイヤーキャラとして登場していました。当時は雑誌でしかゲームの情報を知ることは出来なかったですし、ストーリーも細部まで掲載されないので、ナコルルが登場している理由はよく分かりませんでしたけど、ゲームだからとあまり気にしませんでした。そもそもこんなに人気のあるキャラクターが新作で出ないはずがないと思っていたのでナコルルがいることに違和感がなかったんです。
今作のサムライスピリッツ斬紅郎無双剣が真サムライスピリッツより前の時代だと分かったのはゲームの稼働後でおそらくムック本か何かの情報だったんじゃないかと思います。ナコルルが登場している理由を知った時もなるほど、そうするしかないよなぁという印象でした。ギース・ハワードみたいに実は死んでなかったという理由付けのパターンもありますけど、時系列を前にする方がじゃあエンディングで死なせるなという突っ込みも出ずに済みますし。
こうしてナコルルの復活はごく自然に受け入れられましたが、サムライスピリッツはそれ以降一つの問題を抱えました。時間軸が前に進まなくなったことです。2003年に発売されたサムライスピリッツ零は初代よりも前の話ですし2019年に発売されたサムライスピリッツも零より後ですが初代より前の話です。ナコルルが死んだことで物語が前に進められなくなったサムライスピリッツ。ストーリーを重視してキャラクターを死なせるSNKの世界観造りへのこだわりを僕はとても好きですけど、ナコルルの死は作品において大きな足かせとなってしまったような気がします。時間軸が前に進まないとどうにも新作のわくわく感が弱いように思えます。時系列が前の作品も時には良いですけど何度ともなると流石に新鮮味もなくなりますし。ここでちょっとシリーズを思い返してみると、ストーリーのあるサムライスピリッツはこれだけじゃないことを思い出しました。3Dで創られたサムライスピリッツ三作品です。SAMURAI SPIRITSもSAMURAI SPIRITS2アスラ斬魔伝もサムライスピリッツ閃もシリーズの正当な流れを汲む作品です。
SAMURAI SPIRITSは当時人気が出なかったために雑誌での扱いも良くなく、そのために僕は細かいストーリーを把握していませんでした。今回コラムを書くために当時の資料を見てみると、この作品は真サムライスピリッツよりも後の話であることが分かりました。なんとっ、サムライスピリッツの物語の時間軸はちゃんと前に進んでいたとは! SAMURAI SPIRITSが稼働してから20年以上が経ってようやくこの事実を知りました。ナコルルのストーリーも見てみると、「自然の眠りについていたナコルルは邪悪な気の存在を察知して目を覚ました。」と記述されていました。う~ん、これって……要は死んでなかったというやつですね。ついに奥の手を使っていたのかと思いましたが、このゲームが人気が出ずにあまり取り上げられなかったためか、当時ナコルルは死んでいなかったことは話題にならずにこの事実はあまり知られることなく現在に至っているように思えます。ナコルルは真サムライスピリッツで亡くなったと長い間思っていた人は僕以外にもけっこういるんじゃないでしょうか。
サムライスピリッツ閃も調べてみると、こちらはSAMURAI SPIRITSの続編であるアスラ斬魔伝よりもさらに後の話です。偶然なのか意図してか分かりませんが、3Dで創られたサムライスピリッツはどれも物語の時間軸がきちんと前に進んでいます。そして、2Dや2・5Dで創られたタイトルはすべて真サムライスピリッツよりも前の話です。運命のいたずらか3Dの作品はどれも人気が出ず2Dや2・5Dのタイトルはどれも人気が出たためにサムライスピリッツの物語の時価軸は進んでいるのにそういう印象は持たれずに時間軸が前に進まなくなった印象が定着してしまった感があります。
ここで真サムライスピリッツよりも後の話である1997年に発売されたSAMURAI SPIRITSについて目を向けると、当時の資料でラスボスであるユガはサムスピ最強にして最後の敵という記述があります。つまり、ユガを超える敵キャラは存在しないということ。たしかにユガは魔界の者。羅将神ミヅキでさえ抜けなかった魔界の剣を抜きそれを色に与え、ミヅキには自身が創った魔獣を与えているという設定も書かれているのですから、真サムライスピリッツのラスボスのミヅキよりも明らかに格上のキャラクターです。天草もミヅキも斬紅郎も人間だけどユガは魔界の者。これ以上のキャラクターを出すことは難しい存在です。だからアスラ斬魔伝をサムライスピリッツ最後の物語にしようとしたのでしょうか。サムライスピリッツ閃はその後の話ですが。
サムライスピリッツにはあと一つの作品があるのですが、そのタイトルは、剣客異聞録蘇りし蒼紅の刃サムライスピリッツ新章です。新章と銘打っているとおり、物語はサムライスピリッツ閃より20年後の話です。この物語でナコルルは20年前に命の危機に陥ったリムルルを救出するために精霊となったとされています。そして、20年もの間精霊となってこの悪しき事態を見守っていたのですから、ナコルルが精霊化した1791年より後の話が創られることは新章以外ではありえないということです。ナコルルの出ないサムライスピリッツはありえないですから。ですから真サムライスピリッツで物語は止まったのではなくて1791年にナコルルが精霊となった時がサムライスピリッツの物語の時間軸が止まる軸といえます。
物語の時間軸の終着地が出来上がり、そして、SAMURAI SPIRITS2アスラ斬魔伝ではシリーズ最強の敵が登場したサムライスピリッツは物語として一つの到達点に辿り着きました。その到達点から程ない時期に終着地がある以上これ以上の物語はもう出来上がりません。初代から2018年のサムライスピリッツまでの間に企画者は何度もバトンタッチしていき、全てが俯瞰して組み上げられたものではないと思いますが、僕は結果的にこれで良かったんじゃないかと思います。物語として行きつくところまでいったサムライスピリッツ。そして、新章へと展開していったサムライスピリッツ。それらの物語を観れてファンとして幸せなことこの上ないです。そして、物語は行きつくところまでいってもサムライスピリッツは今も創り続けられています。物語としての到達点は見せたのですから、それでも新作が出されていくということはゲームのシステムが多くの人たちに普遍のものとして受け入れられた証。ナコルルは永遠の存在にならなかったのですが、サムライスピリッツは永遠の存在になった。それでいいのではないかと。サムライスピリッツがこれからも創り続けられていくと思えられるのですから。
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