振り返る時代:2009年

 

 The king of fighers15が発売されて好評である中、今回取り上げるタイトルはThe king of fighters12です。KOF歴代タイトルで好きな作品のアンケートを取れば必ずといっていいほど最下位になる、インカムの面でも人気の面でも最も低いであろうこの作品をこの時期にあえて取り上げるのは上昇ムードに水を射したいわけでも天邪鬼な行動をしたいわけでもなく、単に「しくじり先生」や「有吉反省会」といった失敗を扱ったテレビ番組が一時期流行った影響が出たのかもしれません。俗っぽい理由ですけど。

 

 ともあれKOF12です。タイトーの新基盤Type x2で制作されることになり、KOF RE・BIRTHをキャッチコピーに原点回帰が目指された今作では、全てが一から作り直されることになりました。当然、グラッフィクも一新されることになり、KOF94以降、グラフィックが修正を重ねながら流用され続けていただけに新世代の基盤でグラフィックを新たに作り直されるKOF新作の開発にファンの間では否応なしに期待が高まりました。

 

 開発期間はおよそ三年半にわたり、そして稼働された新作。しかし、KOFのファンはこぞってこれじゃないという反応を持ち、数回のプレイで止めてゲームセンターのKOF12の台では稼働して間もないというのにデモ画面が流れていることが珍しくない光景がありました。

 

 美麗なグラフィック、滑らかなモーション。それらは間違いなくネオジオで作られたKOFよりも秀でているというのに今作はこれまでのKOFと比較にならない程の不人気でした。その理由はコンセプトであったKOF RE・BIRTHが目指したもう一つの刷新、ゲームシステムを根本的に変えたことにあったといえます。

 

「拳と拳のぶつかり合い」をかかげ、キャラクターのグラフィックをだいぶ大きくし距離によってキャラクターが拡大縮小するようになり、打撃と打撃がぶつかると打ち消される「相殺」、近距離強攻撃をカウンターでヒットさせるとラッシュをかけられる「クリティカルカウンター」、相手の攻撃を先読みしてガードから反撃を入れられる「ガードアタック」を新システムとして導入。これらの新要素は近距離での打撃戦を重視したために取り入れられたものでしたが、新システムを試みる以前にキャラクターを動かしてもゲームから面白さが感じられずにゲームをやり込む気になれませんでした。グラフィックもモーションもクオリティは格段に上がっているのに肝心のゲームが面白くない。それは一見すると不可思議なものでした。

 

 SNKプレイモアは次作のKOF13ではこれらの要素を全て削除します。KOFイズムをコンセプトにゲームシステムは四つのジャンプが駆使される闘いになるKOF98やKOF2002をベースにしたものへと戻されました。グラフィックサイズも元のサイズに戻り、それに伴いキャラクターの拡大・縮小もなくなりました。結果的にKOF13でファンは戻ってきて、KOF13はKOF98やKOF2002と並び最も評価されるKOFタイトルとなりました。

 

 このことからもKOF12の失敗が新システムにあったことは間違いないですが、その中でも最もやってはいけなかったのがキャラクターのサイズを大きくしたことにあるのではないかと思います。

 

 SNKプレイモアもKOF13のメディアからのインタビューで今作の評判が良い要因として、拡大・縮小を止めたのは正解だったと認めていました。大きなキャラクターのサイズはKOFのシステムに合わないということになりますが、2D対戦格闘ゲームの歴史を振り返ればそもそもキャラクターのグラフィックが大きいゲームがヒットした作品は龍虎の拳しか思い当たりません。

 

 その龍虎の拳も1はコンピューター戦をメインに制作されたゲームで対戦プレイをメインにした2はファンの期待に応えられたと言えるほどの人気を得られませんでした。シリーズ三作目の龍虎の拳外伝アートオブファイティングでは3D対戦格闘ゲームの要素を積極的に取り入れ商業的に失敗しています。

 

 他のタイトルに目を向けても対戦プレイをメインに作られた2D対戦格闘ゲームでキャラクターのグラフィックが大きくてヒットした作品は見当たりません。ですからKOFでキャラクターのグラフィックが大きいのは合わない云々の前に対戦プレイに軸足を置いた本格的な2D対戦格闘ゲームそのものに大きなキャラクターのグラフィックが合わないのかもしれません。

 

 最近では、You tubeの動画でゲームの開発者の対談が多く見られるようになってきましたが、その中でディンプスの社長である西山隆氏の対談がありました。西山隆氏といえば初代ストリートファイターを開発した人物であり、SNKのファンの間では餓狼伝説の開発者として知られています。

 

 西山氏はSNKで餓狼伝説を開発する前はカプコンに在籍しストリートファイターを、その前はアイレムでスパルタンXを開発してきました。スパルタンXはクンフーを使う主人公がパンチと蹴りで敵を倒していく横スクロールアクションです。どのタイトルも人気を集め、特にストリートファイターは2D対戦格闘ゲームのシステムの大部分をこのタイトルの時点ですでに作り上げていたのですから、西山氏は格闘ゲームというジャンルの中で最も偉大な人物と言えるかもしれません。

 

 その西山氏が動画の中でスパルタンXはリズムゲームをイメージしたと語っていました(動画では音ゲーと称していて、リズムゲームと表現したのは正確にはストリートファイターシリーズのムック本でのインタビューです)。言われてみると、これほど腑に落ちる言葉はありません。でんでけでけでけという身体を動かしたくなる独特のBGM、そして、敵の動きに合わせて、立ちパンチとキック、しゃがみ足払い、ジャンプキックと攻撃を当て、ジャンプして襲いかかってくる敵には垂直ジャンプで頭を当てて迎撃し、向かってくるナイフにはしゃがんで避けるそれらの動きはたしかにリズムカル。格闘をしているというよりもリズムに合わせてアクションしているというのがぴったりです。

 

 そう考えると、2D格闘ゲームは格闘だけでなく、リズムという要素も意識しなければならないのではないかと思えてきます。世間に対戦格闘ゲームのブームを沸き起こしたストリートファイター2も前後に動き、しゃがんだり時にはジャンプしたりとステージをたえず移動し続けます。間合いの要素が現実の格闘技よりも重要であるとはいいませんが、誇張したそれらのアクションは打撃と二分する重要な要素としてプレイする者に、観る者に分かりやすく伝わってきます。

 

 ストリートファイター2のシステムの多くはすでに初代ストリートファイターで出来上がっていたものであり、それらを考案したのはスパルタンXを開発した西山氏。氏の頭の中にスパルタンX同様にリズムが大きく意識されていたとしても不思議ではありません。2D対戦格闘ゲームはリズムも楽しめ。であるならば、大きなキャラクターサイズはリズムを生み出すには不適格なサイズです。

 

 大きなキャラクターサイズで2D対戦格闘ゲームを作ってはいけないというのが絶対であるわけではありませんが、2D対戦格闘ゲームを作るなら、リズムという要素を味方にする必要はあるのではないかと、The king of fighers12をプレイし、西山氏の言葉を知るとそう思わざるえません。

 

 しかし、そうなるともし龍虎の拳の新作が出されることになってもヒットを生み出すのは難しいのかなと改めて思いました。KOF 14のプロデューサーである小田氏は当時のメディアからのインタビューで今後作りたいゲームとして龍虎の拳の名前を上げました。格闘ゲームとしての答えを見つけられないまま終わったというのがその理由でしたが、対戦プレイでの面白さが求められる現在の2D対戦格闘ゲームのシーンの中で大きなサイズのキャラクターが闘う龍虎の拳がヒットするのはSNKの人気作品の中でも難しいといえます。でも、あのビッグサイズのキャラクターがゲームセンターの筐体の画面の中で動いているのを始めて見た時の衝撃、覇王翔吼拳を当てた時の気持ち良さ、龍虎乱舞のこの目にした時の感動は今でも忘れられません。でかいからこそ表現できるものもありますから、ぜひともいつか龍虎の拳の新作もプレイしたいものです。