振り返る時代:1994年

 

 対戦格闘ゲームの新作タイトルが発表される場は今ではEVOなどの大規模な格闘ゲーム大会やゲームメーカーの公式サイトが主ですけど、インターネットが普及される前はほぼゲーム雑誌一択でした。限られた情報からゲームの中身を推測していくのは楽しくともすれば至福の一時にもなります。

 

 それは今も昔も変わらないですけど、対戦格闘ゲームが全盛だった90年代は完全な新作タイトルが多くてかつジャンルに勢いがあった分、どんなゲームなのか推測する楽しみは格別でした。中でも今でも強く記憶に残っているのがThe king of fighters94で、そのタイトルが初めて世に出たのはゲーメストの7月15日発売の号。今後発売予定の新作リスト一覧のコーナーがあって、そこにThe king of fighters94のタイトルが新たに追加されていて、メーカーがSNKでジャンルが格闘ゲームであること以外の情報はいっさいありませんでした。  

 

 しかし、このタイトルを見ればSNKのファンならばある推測に行き着くというものでしょう。キングオブファイターズという名は餓狼伝説でギース・ハワードが開催していた格闘技の大会名で、さらにはギースは若かりし頃に龍虎の拳2でもキングオブファイターズを開催していました。餓狼伝説と龍虎の拳に共通する言葉をゲームのタイトルに持ってきたということはすなわち————。

 

 餓狼伝説と龍虎の拳のキャラクターが闘う対戦格闘ゲーム。この夢の共演は餓狼伝説スペシャルでリョウ・サカザキがゲストキャラクターで登場していてすでに成しえているだけに、もう餓狼伝説と龍虎の拳のキャラクターが一堂に揃うオールスター格闘は確定だろうと言いきれるほどの確信を僕は得ていました。

 

 だから、どんなキャラクターが出るのかなと予測しながら続報を楽しみに待っていたのですけど、その続報はゲーメストでも週刊のファミ通でもなく、ゲームチャージという聞いたこともない雑誌からでした。書店に入ると、ゲームコーナーに置かれていたアニメ調に描かれた不知火舞の表紙が気になって手にして見てみると、なんと!The king of fighters94の広告が見開きで載っていたのでした。

 

 お馴染みの森気楼氏による登場キャラクターの絵がたくさん載っていて、数えてみると計24人。多い!載っている情報は森気楼氏のキャラクターの絵だけでゲーム画面はいっさいなし。テリー・ボガードやアンディ・ボガードなどの餓狼伝説のキャラクター、リョウ・サカザキやユリ・サカザキなどの龍虎の拳のキャラクターたちがたしかにそこには載っていました。

 

 やっぱり餓狼伝説と龍虎の拳のキャラクターたちが闘うオールスター格闘だったんだと紙面に目が釘付けになるのですけど、よくよく見てみると、見たことないキャラクターもそこにはたくさんいるのでした。えっえっえっと戸惑うくらいに多くて、逆に餓狼伝説と龍虎の拳のキャラクターは5人と5人で合計10人しかいない。残りの14人は知らないキャラクターで、餓狼伝説と龍虎の拳のキャラクターたちが闘うオールスター格闘じゃないの?と困惑もするのですけど、でも森気楼によって描かれた知らないキャラクター達も味があって、3人1チームという構成でキャラクターが配置されているのもなんだかわくわくするものがあって、この混沌とした空気に惹かれてもいるのでした。

 

 さらに次のページでは、雑誌のライターが実際にゲームをプレイした感想が2ページに渡って書かれていたけれど、ゲーム画面はここでもいっさいなし。ほとんどぼかした情報になっていて、明確に書かれていたのはゲームシステムが3VS3ということだけ。3VS3?6人のキャラクターが画面に出て闘い合うのだったら嫌だなという一抹の不安も覚えたのですけど、それでもさらにゲームへの期待は膨らむばかりでした。

 

 そして、ゲーメスト7月30日発売の号でついにゲーム画面も含めた完全な特集が組まれて紹介されることになりました。ここでついにサイコソルジャーや怒のキャラクターもチームを組んで登場していることがやっと分かり、餓狼伝説、龍虎の拳の対戦格闘ゲームに留まらず、SNKの人気ゲーム全般に及んだオールスター格闘ゲームであることが分かり、ようやくゲームのコンセプトが明かされることになったのでした。  

 

 この一か月後にゲームは発売されご存じのとおりの大人気タイトルとなっていったThe king of fighters94。ここから何年もアーケードゲームの夏の風物詩として定着していくことになるのですけど、どんなゲームが出てくるのかと待っていた期間も含めてKOF94の夏の記憶が今も一際鮮明に心に残っています。