振り返る時代:1996年

 

対戦格闘ゲームの黄金期であった90年代、SNKは名作だけでなく数多くの名キャラクターも生み出しました。三鷹市のポスターになったナコルル、主人公のライバルでありながら異世界転生ものの漫画の主人公になった八神庵。その活躍はゲームの枠を超えてしまったほどでした。

 

名キャラクターが多く生み出されたのはなにより人気となった対戦格闘ゲームのシリーズを一作だけでなく四作、五作と作り上げたからに他ならなくて、中でもThe king pf fightersは新作が毎年開発され、開発のスパンが一年という(実質八カ月だったそうですが)短い環境下であっても、ファンの期待に応える人気キャラクターが新作が出るたびに登場し、ファンの心を捉え続けていました。

 

KOF94の草薙京に始まり、KOF95の八神庵、KOF96のレオナ・ハイデルン、KOF97のオロチチーム。これらのキャラクターはシリーズに欠かせないキャラクターであって、最新作のThe king of foghters15にも全員登場していて、初登場から20年経った今でも熱く支持されています。ですが、そもそも彼らだけでなくて90年代におけるシリーズのオリジナルキャラクターはどれもが魅力的で新作になかなか出る機会に恵まれなくてもそれは華が足りないだけでその代わりにそのキャラならではの味を持っていました。

 

こうした魅力あるキャラクターの数々に支えられて15作ものタイトルを重ねてきたKOFですが、一方で、ゲームに登場出来なかった没キャラクターも当然のことながらいて、当時はゲームムック本でそのラフ絵を見ていましたけれども、中にはこのデザインが没になるなんてっと惜しい気持ちを抱いてしまうこともしばしあったりで。特に今でも記憶に残っているのがKOF96で、ムック本に掲載されていた没キャラクターのラフ絵からの情報によると大門五郎の弟子が登場する案があったのでした。その弟子はなんとっロシア人の少女。大門五郎が身長2メートルを超えていてお腹がちょっとポッコリ出ていて脂肪がほどよくのった巨漢の身体に白いハチマキ、下駄を履いていて、28歳のおじさんで、細い眼をしたいかつい顔とこれでもかと日本人柔道家のステレオタイプなデザインをおそらく意図的にされたであるのに対して、その弟子は大門五郎の真逆をいくロシア人、16才の少女でポニーテールが似合う可愛らしい顔をしていて、なのに大きな下駄を履いているという師匠と通じるパーツも組み込まれたなんとも不思議なデザインでした。大門五郎が漫画的なデザインであるのに対して弟子のロシア人少女はアニメ的なデザインのようでもあって、それも心を惹きつけるものがあったんですね。  

 

そんなゲームに顔を出せなかった彼女の記憶はずっと心に残っていたのですけど、2020年にSNK Anniversary Fan Bookなる本が発売されて読んでみると、その本に没キャラクターのラフ絵も掲載されていて、久々に大門五郎の弟子であるロシア人少女の絵を見ることが出来ました。20年以上の時を経ても彼女のデザインは魅力的でしたが、その絵の隣には見覚えのない絵が並んでいておやっと目が止まりました。おそらく、当時のムック本には掲載されていなかったであろうからだと思うのですけど、学生服を着てハチマキを巻いた少年の絵で矢吹真吾を連想させるデザインで、横には「京の弟 大門の弟子と共にKOFに参加」と書かれていました。さらには「炎はうまく使えない」との補足も。

 

これらから推測するに草薙京と同じ技や似た外見のキャラクターの矢吹真吾のアイデアはKOF96の時にはすでにあって、その時は開発期間あるいは容量の諸事情で出ることは適わず、翌年のKOF97で草薙京の弟ではなく弟分という立ち位置に変わり矢吹真吾として登場することになったのではないかと思います。草薙京の弟がいて、さらには大門五郎の弟子のロシア人少女がいてその二人がチームを組む。そんな思いもしなかった構想を目にした時、矢吹真吾に足りてなかったものがなにか、そんな思いが突如出てきたのでした。

 

KOF97にチームではなくシングルキャラクターで初登場して、翌年のオールスター作品となったKOF98までに留まらずに新章となったKOF99では二階堂紅丸と共に新主人公チームの一員として登場した矢吹真吾。その後も新作に出続けてKOF2001ではついに念願の草薙京ともチームを組めて二階堂紅丸、大門五郎と共に初代主人公チームの一員になれました。

 

しかし、そのKOF2001のエンディングでは草薙京からお前も早く本当の仲間を見つけろよと突き放された言葉を言われ、チームメイトとして実力を認められたのではなくて単なる数合わせに過ぎなかったことが分かり、がっくりと肩を下ろしました。そんな真吾に手を差し伸ばしたのが草薙京の父親であり師匠でもある草薙紫舟で、こうして振り返ると紆余曲折のあるドラマが真吾にはあって、KOF11では前作KOF2003で負傷した神楽ちずるの思いを汲んで草薙京と八神庵がチームを組む橋渡し役を命を張って務めたりもしたのですけど(八神庵にお願いしに行っては殺されそうな目に数度あったとか……)、その後は新たにドット絵を描き直し心機一転となったKOF12以降は、真吾がプレイアブルキャラクター(DLCではない初期キャラクターとして)として登場することはありませんでした。

 

真吾にとってちょっとした壁に突き当たったのかもしれません。名キャラクターが数多く生まれたSNKのオールスター格闘であるKOFに出場するのはたいへんなことでありますけれども、そもそもKOFが3ON3のチームバトルであって、チームメイトとチームを組んで出場するからこそ、そのキャラクターの魅力が何倍にも増していく側面があります。そんなゲームシステムにおいて、真吾はシングルキャラクターとして生み出されて、その後は言葉は悪いですけど数合わせ的な要員としてチームに組み込まれて登場しました。師匠は得たけれども本当のチームメイトは得られない。それでは他のキャラクターたちがチームで輝きを増しているのに真吾だけソロで闘っているようなもの。ボスキャラクターでもないのにソロで闘うのはちょい厳しく、やはり真吾にもチームメイトが必要なんじゃないかと思いいたるのでした。そう、真吾に足りないのは技の成熟度でなくてチームメイト。荒噛みを完成させるよりも先にチームメイトを見つける方が彼には重要なのかもしれません。

 

KOF15にはDLCキャラクターとして登場することが出来ましたけど、今回もシングルキャラクターでの登場で、チームを組んで登場したMOWチームやサウスタウンチームに比べるとやっぱりインパクトは弱く……草薙京の3Dモデルを元に作られているからというのもあるのでしょうけど、これがチームとして登場していたらそのインパクトはだいぶ上がっていたのかもしれません。数合わせでない本当のチームメイト、それはすでにKOF96でいたけれど、真吾だけが翌年のKOF97で登場出来て……だとするのなら、没になった大門五郎の弟子のロシア人少女といつかチームを組んで登場する日が来ることを心から願わずにはいられないのでした。

 

ところで、オロチチームはそのコンセプトが主人公チームと同じ属性の能力をそれぞれが持っている、いわば対のような存在だとKOF96の時点で決まっていたそうですけど、真吾のチームも主人公チームとの対としてKOF96では考えられていたのでしょうか。それとも、熊との闘いで負傷した大門に代わって弟子が出場と書かれていたので、京、京の弟、大門の弟子で新主人公チームが組まれることになっていたのでしょうか。それはちょっと微妙なような……。前者の方が個人的にはワクワクするのですけど、草薙京の弟、大門五郎の弟子といてあと一人は二階堂紅丸と関係した人物になりますけど、それを思わせるラフ絵は見当たらなかったので当時そういう考えがあったかは謎のままです。

 

もし二階堂紅丸と関係したキャラクターであるならば……ふと思い出したのがKOF99が発表される前、KOFの新作は主人公が草薙京から変わって、新主人公は二階堂紅丸の弟で名前は二階堂ほうじ、光の拳の使い手という噂がネット上で流れましたけど(昔のことなので名前とか少し違うかもしれません)、ご存じのとおりKOF99の主人公はK’なので、おもいきりデマだったのですけど、あの噂はなんだったのかというのはともかく、二階堂ほうじ……デマからキャラクターが現実化したらそれもSNKらしく感じますけれども、いつかそんな未来があったりするのでしょうか。ともあれ、矢吹真吾の本当のチームメイトをいつかこの目に見たいと思うのでした。もちろん、大門五郎の弟子のロシア人少女と共にというのは欠かせませんっ。

 

 

          SNKの資料のラフ絵を元にsaturn-freakさんに描いていただいた大門の弟子のロシア人少女です。

                                                     

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