ライデン

 

登場作品:餓狼伝説

 

 

ストリート―ファイター2が大人気だった91年の末。稼働から8ヶ月が経っていましたが、その人気は衰えを知らずにストリートファイター2の台の前では以前としてプレイを待つ人の列が出来ていました。

 

そんなある日、ゲームセンターにストリートファイター2に似たゲームが登場します。SNKの餓狼伝説です。このゲームの存在を僕はマイコンBasic Magazineで目にして知っていました。パソコン雑誌であるベーマガはアーケードゲームの紹介も時折していて、餓狼伝説の広告が見開きで掲載されていたんです。この頃唯一のアーケードゲーム専門誌であるゲーメストはまだマイナー誌で書店で扱われている店が少なく、僕はストリートファイター2の情報をもっぱらベーマガで仕入れていました。広告では骨法の使い手であるアンディ・ボガードがカポエラ使いのリチャード・マイヤに飛翔拳を撃っている写真が載っていてその写真はとてもカッコ良く僕はこのゲームを楽しみにしていました。

 

しかし、実際プレイしてみると操作性が悪く、モーションはカクカクで必殺技は出しづらい、技数は少なく、プレイ後には皮肉にもストリートファイター2の凄さを改めて実感させられました。良い印象はまったく持てなかったんですね。

 

でも、10分も経つと不思議とまたプレイしたくなってくるんです。それでまた50円玉を台に投入してプレイ。操作性は悪くこれはと光る独自のシステムもないのになんだか楽しみ始めている自分がいました。

 

餓狼伝説のコンピューター戦は初めに四人の敵キャラクターから一人目を選ぶことが出来ます。一人倒すごとにプレイヤーキャラの勝ち台詞がバストアップの画面で出るところまではストリートファイター2と同じ形式ですが、その後にThe king of fightersというアメリカのサウスタウンで開催されている格闘技大会の主催者であるギース・ハワードがスーツ姿に高級そうな椅子に座ってといういかにも権力者らしい出で立ちで、プレイヤーキャラの試合に対するコメントを残します。

 

初めは余裕の姿で眺めていたギースですが、彼らの思いもしない活躍ぶりに次第にその存在が気になり始めます。そして、彼らのうち二人がテリー・ボガード、アンディ・ボガードであり、自らの手でその命を奪ったジェフ・ボガードの息子であることに気付き、彼らに向ける視線が本気の目になります。

 

四人の敵キャラクターを倒すと、その後は新たなキャラクターとの闘い、中ボス戦が始まります。一人目はホア・ジャイ。ムエタイ使いでジョー東のコンパチブルキャラクターですが、試合の途中になると観客席から放り投げられたアルコールドリンクを飲み急に必殺技を乱発するようになります。試合の途中にアルコールを飲むなんてどう見てもまともな格闘家とは思えないのですが、それもそのはずこの中ボス戦で出てくるキャラクターはすべてギースの子飼いの選手たち。いわば裏の世界で闘う格闘家たちです。ホア・ジャイが敗れると、ギースは怒りに満ちた顔で秘書に、

 

「次は誰と闘うのだ!」と聞きます。

 

「はっライデンです」

 

「絶対に負けは許さんぞ!!」

 

大会の実力者の一人が試合途中にアルコールドリンクを飲んで闘い、主催者は特定の選手を潰すことに躍起になる。ゲームプレイ時からテリーが「この必殺技でギースなんか楽勝だぜ!!」「俺は親父の仇を取るまでは負けられないんだ!!」という発言を勝利時に言ったり、危うい雰囲気が漂っていましたが、正常な格闘技大会ではないことがこの時点ではっきりと伝わってきます。

 

そして、主催者の息がかかったと思われる選手、絶対に負けを許されない存在のライデンが登場します。その姿はとてつもなくでかく、プレイヤーキャラの三倍の面積はあるんじゃないかと思えるくらいに画面の場所を取っていました。餓狼伝説はストリートファイター2よりも少しキャラクターのサイズが小さめですが、ライデンはストリートファイター2のどのキャラクターよりも大きく見えます。覆面を被ったプロレスラーで腹はぼてっと出ている巨漢。試合が始まると右腕を前に突き出して、左腕は顔の後ろあたりで鉤型に曲げながら手刀のように指をぴんと揃えて伸ばしたかまえを取ります。プロレスラーなのに空手家や中国拳法家のかまえを誇張したようなファイティングポーズ。その身体の大きさもあってなんだか恐いです。しかも試合中は毒霧を吐きますし。

 

餓狼伝説のコンピューター戦は難易度が低めで比較的に楽に勝ち進めることが出来ますが、ライデンはとても強くまともに闘ってはまず勝てません。通常技の攻防で歯が立たずにすぐに負けてしまいます。ゲームをクリアーする最初の難所ともいうべきキャラクターでした。絶対に負けを許されないキャラクターのライデン。その強さは伊達じゃありませんでした。パンチを打つと毒霧を必ず吐くのでその後の隙を突いて倒すという攻略法があるのですが、その作戦を見つけるまではとても高い山でした。

 

そして、その後に棒術使いのビリー・カーン、ラスボスである大会の主催者ギース・ハワードとコンピューター戦は続いていきます。こうして振り返ると中ボス戦の一人目がムエタイ使い、二人目にプロレスラーが用意されていますが、この二つの格闘技は90年代初めの当時、最強の格闘技の候補に上がっていました。ムエタイは立ち技最強の格闘技と言われていてストリートファイター1ではムエタイ使いのサガットがラスボスでしたし、日本でプロレスが熱狂的な人気を集めていたこの時代のプロレスファンの多くはプロレスこそが最強の格闘技という幻想を抱いてました。

 

その二つの格闘技の使い手を中ボス戦で持ってくるところは異種格闘技の大会という舞台でとても熱い展開で、しかも一人は試合中にアルコールドリンクを飲み、もう一人の選手は巨漢で毒霧を吐く覆面レスラーと裏の世界で闘う格闘家達。まるでアメリカのB級アクション映画を見ているかのような展開ですが、実際、僕を含め餓狼伝説に魅了されたプレイヤーの多くはこのアメリカのB級アクション映画のような空気感をプレイしながらゲーム画面から味わって楽しんでいたんじゃないでしょうか。映画のスクリーンの中の主人公に自分が実際になってきな臭い格闘技大会を勝ち進んでいく体験をあたかもしているかのように。そういうのめり込みが出来るよう、餓狼伝説は演出に凝っていましたし、そういう点で操作性は悪いですが、コンピューター戦の完成度はとても高かったんだと歳を取ってから気付くようになりました。

 

あの時から20年近くが経ちましたが、コンピューター戦のハイライトの一つであった、決して負けを許されない選手であるライデンとの試合が今も忘れられず、ライデンとの闘いは鮮烈に記憶に残っています。SNK快進撃の立役者はライデンだったと言いたくらいに僕には思い入れのあるキャラクターです。